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支え [書斎の本棚]

本当に久しぶりの更新となりました。

ただ、言い訳をすればこちらのブログは「本棚」です。
頻繁な更新はありませんので、姉妹ブログの「四畳半の日記帳」では毎日のようにバカ話を更新していますので、お立ち寄りください。


そして、こちらのブログのメインコンテンツである、ドラマ「僕の生きる道」の二次小説。
久しぶりに書いちゃいました。
稟議書は書けても、お話はダメだね・・・。

それでも、間もなく放映9年目を迎える「僕の生きる道」は忘れることが出来ず、それをきっかけにいろんな人に出会い、WEBデビューし、そして駄作を書き上げてきたので、思い浮かんだものは書いていこうと思います。

次はいつになることやら・・・(笑)


さて、この先は中年おやじが書いた、駄文です。
ドラマ「僕の生きる道」のイメージを壊したくない人、おやじの二次小説など読みたくない人は、これから先、一歩も前に進まないでください。まだ、姉妹ブログの写真の方がマシだと思います。

それ以外の方はお進みください。

では 二次小説 『支え』です。

体中の水分を絞り出してしまったかのように思われた涙も止まり、目元がかさかさになっているのを感じた。
喉の奥からこみ上げてきた嗚咽も今は止んでいた。
だが、背中にまわされた掌と小さな胸板から感じる温もりはずっと止まらなかった。
みどりは何も言わずに、ずっと秀雄を抱きしめていた。
ふたりは同じ情景を思い出していた。


「これから先、もっと辛くなったり、もっと苦しくなったりするかもしれません。みどり先生、ずっと僕のそばに居てくれませんか。僕と結婚してください。」

あの大きな木の下でプロポーズをした日のことを思い浮かべていた。
杉田めぐみにも言われたが、死ぬ事は怖くない。
胃の痛みや食事が摂れない辛さについては、今迄もみどりに伝えてきた。
だが、心の痛みをここまで吐き出したのは初めてだったかもしれない。

新婚旅行の宿、横に眠るみどりの顔を眺めていると、自分は幸せなんだと感じた。
提案した合唱にもクラス全員が参加してくれた。
合唱コンクールの予選も突破し、生徒たちは受験勉強と合唱も両立してくれている。
生徒達も慕ってくれるようになり、12月18日、29回目の誕生日をみんなで祝ってくれた。
大好きなみどり先生と新婚旅行にも来ることが出来た。

僕は今、世界で一番幸せ者だと思った。
みどりは、相変わらず穏やかな寝顔を見せている。


生徒達の成長を・・・卒業を見届けたい。
もう少し・・・みどりと生きたい。


そう思うと、みどりの寝顔を見るのが辛くなった。
秀雄はみどりを起こさないように、そっと寝床を抜ける。
襖を静かに開けてバルコニーのソファーの座ると、ずっとずっと抑えてきた涙が溢れ出した。







ふと、目が覚めると横に秀雄が居なかった。
隣の部屋へ続く襖がうっすらと開いていた。
もしかして体調が急変したのでは?
慌てて、隣の部屋へ行くと秀雄はバルコニーのソファーに座っていた。

― 眠れないのかな ―

それにしても、12月の箱根は冷える。
みどりは寝室に戻り、丹前を秀雄の為に手にする。
秀雄に近づいて泣いているのに気が付いた。



みどりは、秀雄を胸に引き寄せ肩と背に手をまわした。
秀雄が落ち着くまで、ずっと背中を摩った。
何て声をかければいいのか分からなかった。
随分前に敬明会病院の金田先生に言われた事が思い出される。

「彼の痛みをあなたが理解しようとしても無理なんです」
「彼が辛いときに、辛いって言える相手になってください」

そして、あのプロポーズの言葉を思い出す。
今は何も声をかける必要はなかった。そばに居るだけでいいのだ。



どれだけ時間が経ったのだろうか。
カーテンの隙間から少しずつ朝の光が入り始めた。
秀雄はゆっくりと身体を起こして、みどりの方を向いた。

「みどり先生・・・」

秀雄は次の言葉がなかなか出なかった。

「中村先生・・・お腹空いちゃいました。ここの朝ごはん、美味しいって評判なんですよ。」

みどりはおどけたように笑って見せた。

「はい。じゃあ、準備をしましょう。」








チェックアウトを済ませて、バス停まで歩く。
青い空に白い雲が浮かんでいる。
12月の箱根にしては、暖かい方だとフロント係りが言っていた。
秀雄はみどりがタクシーを呼ぼうかと提案したが、それを断ったのだ。


「中村先生、本当に大丈夫ですか?」
「はい。確かに寝不足ですけど、身体の方は調子いいですよ。」

フロント係りから、バスの発車時刻を聞いていたので、バス停に到着後まもなく路線バスはやってきた。
まだ早い時間だが、観光客で席は殆ど埋まっていた。

箱根には観光名所が沢山あるが、秀雄の体調を考えると大涌谷など歩くのに体力を使う所には行けない。ふたりは自然と芦ノ湖の方へ向かった。

芦ノ湖の遊覧船に乗り、船上から風景を眺める。
びっくりする位、富士山が大きく見えた。
他の観光客の殆どがカメラを構えているが、二人は飽くことなく眺めているだけだった。

「年が明ければ、箱根駅伝ですね。」
「そうですね。私もお正月は箱根駅伝を必ずテレビで見ています。」
「僕の母校は出場していませんが、地元の山梨学院大学が有力校なので毎年応援しています。去年は往路は優勝したけど、復路で駒澤大学に抜かれて2位になっちゃったんです。」

みどりは秀雄が駅伝について熱く語るのを聞いていた。

「多分、抜かれてしまった選手も、他の選手ももう少し頑張ればと思ったのでしょうね。出場する事だけでも凄いことだし、準優勝なんて本当に素晴らしいって思うけど、多分選手達はそう思っていないと思うんですよ。今度出場する選手達は自分たちだけでなく、出場できない部員や卒業生の思いも背負って走るんですよね。重いんだろうな…。」
「じゃあ、お正月は二人でテレビで応援しましょうね」
「はい。」




対岸に着いた二人は、お土産物屋に寄った。
秀雄の誕生日をサプライズで祝ってくれた、G組の生徒達。新婚旅行に行くことも伝えてあった。随分と冷やかされたが、結婚して半年以上が経ちそれも慣れっこになっていた。
そんな生徒たちの為に寄木細工の手鏡、キーホルダー、ストラップを買った。

箱根の杉並木を歩き、箱根の関所跡を訪れた。
大規模な工事が行われているが、発見された礎石のある場所に関所や資料館などの施設を作っていくらしい。
工事完成予定日を見て、近くて遠い未来を感じたみどりは

「中村先生、関所はやめてお茶屋さんに行きませんか?」

みどりは事前に調べておいた、旧東海道沿いにある古い茶屋に行くことを提案した。
秀雄は新しい関所を見ることは出来ない。みどりの気持ちが分かっている秀雄には反対する理由はない。

「はい、行きましょう」

バス停に向かい時刻表を見てみると、30分に一本の運行で5分ほど待てばバスは来る。もう少し歩けば、箱根駅伝の往路のゴールであり、復路のスタート地点だが、間もなくバスはやってくる。少しずつ高く上がってきた太陽の陽射しを浴びながらバスを待った。

バスを待つ間、みどりは思っていた。秀雄の襷は私と生徒達でつなげる、と。



バスは混んではいないが、空いてもいなかった。

「みどり先生、一番奥が空いています。行きましょう。」
「はい」

バスの運転手は時間調整なのか、それとも二人が後部座席に到着するまで待つつもりなのか、扉を閉めずバスは停まったままだった。

「みどり先生、窓際に入ってください。」
「はい」

秀雄が腰かけると同時にブザーが鳴り、扉が閉まった。運転手のアナウンスと同時、いや、やや早めにギアを入れる振動が起こり、ゆっくりとバスは動き出した。

杉並木を抜けてしばらく走ると箱根神社の第二鳥居をくぐる。
道は山道らしく大きなカーブが増えてきて、その度に二人の体は左右に揺れた。
秀雄は前の座席についている手すりをしっかりと握りしめていたが、みどりは秀雄の左腕をつかみ左カーブに備えていた。
みどりが不自然な体制になっているので、秀雄は左手をおろし右手だけで手すりを掴む。
秀雄の左腕にみどりの右腕が組まれた。

幾つかのカーブを抜けた頃、「次は甘酒茶屋、甘酒茶屋」とアナウンスが流れた。
前方に座っていた子供が押しボタンを鳴らす。


IMG_6712rsize800.jpg


バスに乗っていた半数がここで降りた。
目の前にはタイムスリップしてしまったかのような大きな茶店があった。
江戸時代初期から続く茶店の中に入る。やさしい麹の匂いが漂ってきた。
店の名前にもあるが、名物の甘酒の匂いだった。

「中村先生!」
「はい、飲みましょう。」

二人は甘酒だけでなく、お昼ごはん代わりにいそべ餅と力餅を頼んだ。

「おいしー!!」
「はい。甘酒も暖まりますね」
「はい。」

秀雄は昨日から随分とみどりに心配をかけてしまった。今こうやって目の前で笑っているみどりを見ていると嬉しくなる。
食欲も戻ってきた。

「みどりさん、お餅、おかわりしましょうか?」
「はい!」


この茶店も老朽化が進み、リニューアルの計画が持ち上がっていると、店員から来いた。


バスがやってくる前に、周囲を散策する。
裏手には旧街道の石畳を見に行った。鬱蒼としており、他に見学者はいなかった。
旧街道の資料館もそばにある。
小さな建物だが、入場料が70円。

「・・・」
「やめておきましょうか」
「はい」



到着したバスから15人位の人が降り、10人程乗り込んだ。
先ほどの事もあり、中ほどの座席に座る。

「中村先生、今度は窓際に座ってください」
「はい」

本当なら景色を楽しめる窓際はみどりに譲りたかったが、みどりの気持ちを思い窓際の席に座った。

カーブだけでなく、下り坂の傾斜も加わった。
箱根七曲りという連続カーブに差し掛かると、みどりは身構えたが、速度を随分と落としていたのでそれ程でもなかった。

「みどり先生、サルの親子がいますよ」
「本当だ」
「日光のいろは坂に似ていますね」
「あ、そういえばそうですね」

バスは七曲りを過ぎると、徐々に家や旅館の間を通り抜ける。
普段、車の運転をしないふたりにとっては、狭い道を大きなバスで対向車とすれ違うことに驚く。
少しずつ風景が変わり、民家や旅館から大きなホテルが見え始めた。

箱根湯本駅に到着した。



ゆっくりと出発した、箱根ロマンスカーの車内。
当初は体調を考え、往路と同じように小田原で新幹線に乗り換えるつもりだったが、秀雄は体調が良いので、そのまま小田急で行きましょうと言った。
窓側の席に座るみどりの左肩には秀雄が寄りかかっている。
心地よい振動が、寝不足の秀雄を眠らせていた。

みどりも寝不足だったが、眠らずに秀雄を見守り、考え事をしていた。
この新婚旅行で、これまで以上に秀雄の支えになろうと決意した。
そして・・・中村先生でなく、秀雄さんと呼んでみようかと考え始めていた。


ロマンスカーは下北沢を通過した。
ここで降りられれば、京王線に乗り換えられるのだが停車はしない。


まだ、みどりの肩に寄りかかり、穏やかな表情で眠っている秀雄を眺めていた。
みどりは聞こえない位小さな声を出した。

「ひ で お さ ん」

秀雄がむくっと起き出した。

「はい?」
「え・・・」

秀雄は目を擦って窓の外の風景を眺め、現在位置を知ろうとする。

「中村先生! もうすぐ新宿ですよ。今、参宮橋を過ぎました。」
「みどり先生、ごめんなさい。ずっと眠っていましたね。」
「ふふふ。もうすぐ新宿に到着します。中村先生、すぐに乗り換えて逆戻りしますよ。」
「はい。」

もう少し、『秀雄さん』と呼ぶのに時間がかかりそうだ。

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コメント 2

CYPRESS

ふ~ん、みどり先生はこうして中村先生を「秀雄さん」と呼ぶようになったんですか、知りませんでした(笑)。

maeboo.さんの書く二人の言葉は、本当に草なぎ剛と矢田亜希子が話してるみたいです。今回だけではなく、毎回毎回ね。

甘酒茶屋の写真は絶対みどり先生が撮ったに違いありません(笑)。
by CYPRESS (2011-12-13 00:10) 

maeboo.

CYPRESSさん、こんばんは
勿論、妄想です。妄想。

二人の話をしている様子も、想像です。いや、やっぱり妄想(笑)

甘酒茶屋の写真は、2009年の写真。
2004年に亡くなった中村先生は、見ることのできなかった、リニューアルした甘酒茶屋の写真です。

ブログ「四畳半の日記帳」で2009年の5月の記事を読んで頂くと箱根の様子も出ていることでしょう。
箱根の関所も新しくオープンしています。

甘酒茶屋の写真は新婚旅行の際は撮らなかったと思います。
キャノンのフィルムカメラIXYを韮崎で使っていましたが、中村先生と話をして以来、撮らなかったと思います。
そうしないと、私の二次小説の中で成立しない作品が沢山出てきます(笑)

と、いうことでみどりさんの心の中のカメラが撮ったということで。
by maeboo. (2011-12-13 23:58) 

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