SSブログ

素直 [書斎の本棚]

さあ、いつもの駄文です。

2003年放映のドラマ「僕の生きる道」の二次小説。

なぜ、こんな事をしているんでしょうね。

いくらでもイメージが湧いていた放映直後と違い、ちょっとしたキッカケがないと思い浮かばなくなった。

それは、ネタが尽きたからか。それとも、脳が動いていないからか?

取り敢えず放映から10年までは頑張ってみようということで、書きかけのままPCのフォルダに残っていた物に手を加えてみました。

先日、久しぶりに清水が丘公園に行きましたが、この作品にもちょっと入っていました(笑)

では、興味のない人はこの先スルーしてください。



『素直』


小さい頃からか、感情をあまり出す方ではなかった。
特に高校に入ってからは、熱くなるのは恥ずかしい事だと思っていた。
だが、受験や家の問題でイライラする事が増えて声を荒げることがあった。
それを乗り越えると、クラスの居心地がよかった。自然と感情が溢れるようになった。



でも、今回くらいはクールに努めようと思った。
そんな意気込みも虚しく、教室に入った瞬間笑顔になってしまった。

「栞~!!!」

と、鈴木りなが駆け寄って来る。
父親の会社がうまくいかなかった頃、一番八つ当たりした相手はりなだったかもしれない。
我ながら恥ずかしくなる。
私の笑顔を見て合格を確信したりなが、まるで自分の事の様に喜んでくれている。
嬉しかった。

すぐに報告しなくてはいけない人がいる。
他の仲間たちの祝福の言葉に答えつつ、マフラーを解き、コートを脱いで職員室に向かった。

職員室には中村先生とみどり先生、二人とも居た。
他のクラスの生徒が久保先生に合格の報告をしている。
彼が職員室から出るのを待って、中村先生の側に立った。
職員室に入った雰囲気で、大学合格は伝わったようだ。
穏やかな表情で中村先生は私の言葉を待っている。

「先生、私立の方ですが受かりました」
「そうですか」
「赤坂さん、おめでとう」

立ちあがったみどり先生も声をかけてくれる。

「みどり先生、ありがとうございます」

鈴木りなだけでなく、みどり先生にも迷惑をかけたことがあった。

「中村先生、国立の発表はこれからなので、まだ気が抜けません。」
「赤坂さんは国立大学に受かったら、そちらに通うのですか?本当は私立の方が第一志望だったはずだし、お父さんもそれを望んでいるのですよね」
「国立に行きます。父の会社だってこれからも大変なのは変わりません。私立の入学金を納めても4年間の学費の差額は大きいですから」
「そうですか。」

秀雄は栞を見て頷いた。
当初第一志望として選んだ私立大学を受験して合格した。
その上で家計を助けるために自宅から通える国立大学も受験した。
両親は希望の私立大学を数校受験することを薦めたが、結局受験したのはその私立と、後から決めた国立大学の2校だった。
話し合い父親が切り出した約束は、もし国立大学に受からなかったら浪人せずに合格した私立大学に通う事だった。
私立に受かり一安心だったが、両親の気持ちが痛いくらいにわかり、やっぱり国立大学に受かりたかった。

「国立大学の合格発表って、卒業式の後よね?」
「はい。でも、必ず報告に来ます。受かっても…落ちても」
「はい。ここで待っています」

中村先生がやさしく答えてくれた。




教室に戻ると、残っているのはいつものメンバーだけだった。
授業も無く、学校へやってくるのは大学の合否を報告に来る生徒ばかりだった。
雅人、守、萌、愛華、りなは既に受験合格が決まっていた。
みんな今日が合格発表だった訳でなかった。
受験結果が分かるまで、合唱の練習も休みだったが、それでも3Gの教室に来たかったのだ。
大学進学をせず、歌手になる道を選んだめぐみもここにいる。
単願受験をした吉田均もいた。

「発表がまだなのは吉田だけだよね」

りなが机の上に座りながら均に話しかける。
不安そうな均は曖昧に頷くだけだった。
ちょっと前の均だったら、不安に押しつぶされて家に居ただろう。
だけど、今の均は仲間と一緒に居る方が落ち着くようだ。
クラスメイトと…先生と一緒の方が安心できるのだろう。
彼の気持ちが分かる。今の私も同じ気持ちなのだから。


みんな自分の席では無く、教室後方の窓側の席に集まっていた。
りなは机の上に座り、守は椅子を持ち出して馬乗りの様に逆向きに座っていた。
愛華は窓に寄りかかって立っている。
ちょっと眩しいくらいに夕焼けが赤かった。

間もなく高校生活も終わる。
自分でも信じられない位に名残惜しかった。
この気持ちも、みんな同じ気持ちだったら嬉しいと思った。
そばに仲間がいる。
家族がいる。
そして、恩師がいる。


みんなの顔が夕日に染まっていた。
どこかで見たことがある。
そうだ、中村先生が倒れ、病院に運ばれた日に私たちは中村先生の身体の事を知った。
先生が入院した病院に駆けつけ、隣の公園からのばらを歌った。
あの時もみんな夕日に染まっていた。


充実した高校生活は名残惜しく、語りだすと止まらない。
今帰ってしまうと残り僅かな高校生活が減っていく気がして勿体なかった。
結局、昨日と同じように遅くまで残って語り合う。
多分、明日もそうするだろう。
明日には均の結果も分かるはずだ。











みどり先生に名前を呼ばれて、3Gの生徒達は順番に立ちあがる。
クラス代表として吉田均が卒業証書を受け取った。
その数日前、合唱コンクールの客席で私たちの仰げば尊しを聞きながら中村先生が旅立った。
中村先生の故郷の教会で葬儀は行われたが、私たちは一生分の涙を流した。
散々な泣いた後、みんなで誓い合った。卒業式では泣かないと。
どうにか約束を果たし、わたし達は陽輪学園を卒業した。






卒業式の翌日も良い天気だった。
私にはまだ約束が残っていた。
午前中に用事を済ませた後、通学で使っていたバスは使わずに歩いて陽輪学園へ向かった。
昨年の夏休み、初めて訪れた丘の上の公園を通って母校へ向かう。
交差点を超えると校門まであと少しとなった。
昨日まで毎日のように通った道でも、卒業した後だと違って見える。

「よ!」
「え?何で田中がいるの?」
「俺だけじゃないよ」

校門の陰にはみんなが居た。

「ねえねえ、どうだった?」

愛華が腕を組んできた。
みんな、私を見ていた。

「ダメ!一番最初に報告する人がいるから」

と言い笑った。
みんな笑っていた。


職員室に入ると、昨日までと同じように先生たちは仕事をしていた。
主がおらず、代わりに花が飾られた席がある。
その席の横に立ち、手を添えた。
そして、みどり先生の方へ向いた。

「私、国立受かりました。行くね、先生」



nice!(0)  コメント(2) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 0

コメント 2

CYPRESS

只今ブログの引越し中でして、
シーサーのエクスポート機能がボロイのか、私の記事に空白が多過ぎるのか、
殆どの記事が途中で切れ自分のバックアップからコピーして修復中であります(涙)。
『僕の生きる道』の記事を引越ししながら目を通し、久し振りのmaeboo.さんの掌編を読むとまた観たくなってきました。

清水ヶ丘公園を訪れた事も少しはその気にさせてるみたいです。

個人的には相変わらずこのドラマだけではくロケ地一般に興味が有りませんが、それでも行けばドラマに親近感が湧くのも事実です。
オマケにmaeboo.さんの掌編の登場人物達を想像しやすくなります(笑)。

maeboo.さんの掌編の登場人物達は橋部敦子が作り出した人柄からはみ出すことなく、中々見事。
こういうことするだろうなぁ、と納得させる描写です。

次回作も楽しみに待ってます。
by CYPRESS (2012-09-16 19:24) 

maeboo.

CYPRESSさん、こんばんは
おや、引越しですか。
『不自然』も最初はケータイブログだったんですよね。
最近はブログも引越ししやすい機能も増えましたが、不具合は頭痛の種ですね。
レイアウトについては、そもそもブラウザの違いだけで変わってしまうので気にしないようにしています。


by maeboo. (2012-09-17 22:52) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。