SSブログ

キラキラ [書斎の本棚]

二次小説です。

なぜ、こんな事を始めてしまったのか・・・自問自答をしながら書いています(笑)

興味が無い方はどうぞ、お戻りください。

また、ドラマ「僕の生きる道」の内容を知らないとちんぷんかんぷんでしょうし、恐らくこれまでの二次小説に目を通していないと話が通じません。

いやぁ、ハードルが高くて申し訳ありませんね。



さて、七夕に関する作品はこれで7作品目でしょうか?

ネタ切れの救世主のようなイベント、七夕ですが、それもそろそろ限界かも・・・。


それでは四苦八苦の書斎主、駄文はこちらから
キラキラ




自分が担当する専務は営業部の部長と一緒に得意先へと出かけている。
そのまま今晩は食事をする予定であり、会社には帰ってこない。

役員フロアにいる役員は社長一人で、その社長も今は帰り支度を始めていた。
社長担当秘書が静かな動作で運転手控え室に内線を入れていた。

いつもの光景。いつもの動作。
栞も入社以来ずっと続けてきたように、立ち上がり社長を見送った。





「お先に失礼します」

かつては先輩秘書達が帰らないと、先に帰るのに気が咎めたが、いつからだろう全く気にしなくなった。
先輩達も気にしていないし、栞も後輩が用もないのにいつまでも残っているのを注意して帰らせていた。

「あ、赤坂さん、ちょっといい?」
「はい、なんでしょう?」
「前に話していた件、みんなに確認したら7日が都合がいいみたい。7日でいいかしら?」
「はい。休みなのに申し訳ありません」
「何、言っているの。はい、お疲れ様」
「失礼します」



会社を辞める決意をしてから毎日が慌ただしかった。
貧乏くじを引かされた後輩への引き継ぎが毎日続き、特に専務、いやまもなく新社長になる二代目の扱い方、あしらい方を徹底的に教えた。

その引き継ぎもどうにかめどが立ち、今日は後輩を早々に帰した。栞も久しぶりにこんな早い時間に会社を出た。

一ヶ月位遅い帰りが続き、シャッターが締まり、店内の電灯が落ちた風景に慣れてしまった。
今日は目に入るものすべてが眩しい。

このまままっすぐ帰るのも勿体無い。
いつか入ろうと思いながら、今まで一度も入ったことがなかったカフェに入る。

梅雨の合間、晴れた一日だったが湿気が多く蒸していた。
店に入るまでは冷たい何かを頼むつもりだったが、店内に入り窓際の席に案内されるまでの間、しっかりと効いた空調を感じた栞はホットのカフェオレを頼んでいた。

カフェオレが運ばれてくる間、栞は窓から外を眺めていた。
仕事を終えた人々が急ぎ足で駅の方へ向かっている。

栞は視線をもっと遠くへと移していた。
片側2車線の道路の向こう側、洒落たデザインのビル、ガラス越しエントランス内部に設置された巨大な飾り。
最初何かな?と思って注視したが、すぐにその正体がわかった。

栞は思い出した。
慌ててカバンからスケジュール帳と筆記用具を取り出す。

来月のページを開き、6日と7日に消えるボールペンで記入した「仮」の文字を決して、7日の欄に『送別会』と改めて書き入れた。
秘書課のみんなが栞の送別会を開いてくれると言う。役員のスケジュールは事前には決まっているが、突如変更になることもある。全員が出席したいという事で会社が休みの日に行いたいと聞いている。


入社直後に秘書課に配属が決まり、いきなりボンボン専務の担当となった。勿論、先輩秘書のフォローはあったが、その先輩もきつかった。
同期の仲間からは心底同情され、辞めたいと思ったことは数え切れない。

だが、煩わしいと思っていた先輩の小言は、そののち金言だったと思い知らされた。

その後、栞にも後輩が出来、指導する立場になった。栞が後輩に言葉をかけている間、いつも賑やかな先輩たちは静かになっている。そして後輩が席を立ったのを見計らうとケラケラと笑い出す。

「赤坂さん、あの子今頃トイレで愚痴をこぼすか、同期の子に悪口言っているわよ。恨まれてるよ~」

とかつて栞がしていた行動を完全に読まれているかのようにニコニコしている。
もう、何を言っても先輩たちには負ける。それ以上何も言わなかった。

秘書課の入口のドアを眺めながら

- あの子もいつかはわかってくれるかな -

栞は願わずにいられなかった。


入社当時、秘書課に配され専務の担当となった事を同情していた同期達の方が仕事や職場に馴染めず早々に辞めていった。上司の悪口を散々聞かされた。

栞はあれだけ煩わしかった先輩が今では愛おしく思える。ドロップアウトしていった同期たちはどこまで真実を見つけ出せたのか。自分が踏みとどまれたのは、彼女らよりほんの少し恵まれていたのかもしれない。



カフェオレを飲みながら通りの向こう、商業施設の中の七夕飾りを眺める。
特徴的な形は、ニュースでたまに見る、仙台の七夕飾りのようだ。

会計を済ませ栞は先ほど歩いてきた道を少し戻り、交差点で信号が変わるのを待つ。
信号が変わると、家路を急ぐ周りの人より少し遅いペースで歩き出す。
渡り切ると、さっき見つけた七夕飾りのある商業施設へと足を向ける。


閉店間際であり、中の店舗は営業しつつも客も殆どおらず後片付けを始めている。
2階まで吹き抜けとなっているエントランスホールに、七夕飾りがちょっと窮屈そうに並んでいた。
それでも真下で見ると、思った以上に大きく栞は驚きと感動を覚えた。
説明のプレートを見ると、やはり仙台の七夕飾りであり、七つ道具と呼ばれる飾り物の説明も丁寧に書かれていた。


仙台、東北への応援メッセージを短冊に込めて贈ろうという企画だった。

あの信じられない震災から2年以上が経った。
栞が務める会社の仙台支店も被害を受けた。社員は全員無事であったが、その家族、親戚まで広げると悲しい事実があった。
専務と同行し、何度か仙台支店へ訪れる機会があった。
支店は仙台駅に近く、今では活気が戻ってきていると思ったが、それは東京に住む者の考えだった。

小さなテーブルがエントランスホールに置かれ、そこに巣箱のようなポストが設置されている。
どうやら、応援メッセージを書いた短冊をここに投函するようだが、ポスト周辺には短冊は無く、投函口には昨日が締切という事と参加のお礼が紙に書かれ貼られていた。


栞はもう一度、頭上の七夕飾りを眺める。
沢山の人が短冊に思いを込めて書き込んだことだろう。

仙台や東北の人たちへの応援メッセージだろうか。
それとも、離れて暮らす家族や親戚へ贈るメッセージなのか。
もしかして、今では届かぬところへ行った誰かへ贈るメッセージなのか。


ちょっと前の事を思い出すと高校時代の事を鮮明に思い出す。
大学生の時も、アルバイト先でも新しい出会いがあり、それなりに楽しく過ごした。
だが、まず思い出すのは波乱万丈の高校時代であり、家族であり、クラスメイトであり、中村先生だった。

みんなに会いたいな。
中村先生に少しは成長した私を見せられたかな?


「私が素直じゃないって言うの?   そんな事ない」

思い出すだけで赤面する。
あの時の吉田均の顔は鮮明に覚えている。
あの時の気持ちは封印したままだ。
封印したけど、たまに顔を出す。それには栞も均も触れないまま過ごしてきた。


栞の瞑想は閉店を告げるBGMとアナウンスで遮断された。


栞はリラックスした表情で出口に向けて歩き出す。

再就職先を探さなくてはいけないが、あまり浪費をしていなかったので多少の蓄えはある。
仙台へ行ってみよう。本場の仙台七夕まつりを見に行こう。
微力ながら何か力になれる事があればそこでお手伝いをしよう。

そして、自分の気持ちに素直になってみよう。

- やってみましょう -

懐かしい声が聞こえた気がする。











過去の七夕関連作品

彦星と織姫
星に願う
星に祈る、心に誓う
星の数だけの思い
ヒーロー
五色の短冊


赤坂栞関連作品
夕凪
満員電車
nice!(0)  コメント(3) 
共通テーマ:日記・雑感

nice! 0

コメント 3

CYPRESS

毎回楽しんでいます。

普段は自覚してませんが、私もmaeboo.さん並に『僕の生きる道』が好きなんですかね(笑)。

次回作も楽しみにしています。
by CYPRESS (2013-07-10 13:39) 

maeboo.

CYPRESSさん、こんばんは
生活リズム変わりました?
コメントの時間がお天道様が真上のある頃になっていますよ。

え~、CYPRESSさんの特徴は嫌いなら口数が減るので、厳しい指摘をする事が多い「僕の生きる道」は多分嫌いじゃないんでしょうね(笑)
特に、綾瀬はるかちゃんが。

こちらのブログの駄作群も元のドラマを知らない人が多いので、ぽかーんというお客様が多いのですが、それでも毎日数十件の閲覧があるので、引き続き放置しながらおいておこうと思います。
by maeboo. (2013-07-10 22:19) 

CYPRESS

この二日間、自宅の水漏れ修理で、喜んで有給を使いました(笑)。

本間勇輔の音楽と『世界に一つだけの花』がいいのと、
素晴らしい演出が数か所有り、
綾瀬の演技を帳消しにしています(笑)。

それに、橋部敦子の脚本もツボを押さえ、背骨がしっかりしています。
くさい台詞が多いんですがね(笑)。

by CYPRESS (2013-07-11 00:20) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

1年の長さ ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。