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七夕 [書斎の本棚]

2003年、今から11年前に放映されたドラマ「僕の生きる道」の二次小説です。

あのドラマを観ていない方にはこの先全くご理解を得られないと思います。

また、あのドラマの世界観が崩されるとお思いの方もいらっしゃるでしょう。

それでも「僕の生きる道」を忘れられず、今でも頭の片隅に置いて過ごしている中年おやじの戯れにお付き合いいただける方だけ、これより先にお進みください。


前回の更新が大晦日。その前が去年の七夕。

年に2回というペースですがぼちぼちとやっております。

それでは





親に反対されても歌手になる夢を諦めるつもりはなかった。
学校から提出を求められていた進路志望に歌手と書かなかったのはどうせ反対されるからとめぐみは言った。
だがどこかにまだ迷いがあったのかもしれない。
そんな不安定な杉田めぐみの気持ちを後押しをしたのは中村先生だった。


あの日、生物の授業が始まる前に中村先生は夢の話をした。
眠っている間に見る夢ではなく、将来の希望。

あの頃は、歌手になることを猛反対する母親と毎日喧嘩をしていた。
だから放課後も早く家に帰りたくはなかった。
母親は父親をけしかけて、めぐみに大学進学を促そうとしたが父親は話を聞くだけでどちらの味方になろうともしなかった。

そんな最中にどこか共感を覚えていた中村先生が夢は叶わないもの、時間の無駄だと袈裟斬りにめぐみの心を引き裂いた。
他の教師だったら憤るだけで諦めたかも知れないが、中村先生だったから余計に憤りは収まらない。
そのあとの授業は全く耳に入らず、ひたすら中村先生を問い詰めることしか考えていなかった。


授業が終わり、中村先生を追いかける。廊下に出ると愛華が中村先生に話しかけていた。その後通りかかったみどり先生と何か話を始める。
話が途切れるのを待ち、声をかけようとしたら先生達の方が私に気がついた。
クラスメイトに聞かれたくないので屋上へと向かう。みどり先生もついてきた。


授業中に何を言うか色々考えたつもりだったが、捲し立てるだけで途中から中村先生に主導権を奪われた。
刺々しく言い返したが、中村先生は夕陽に顔を赤く染めながら最後に笑いかけて、めぐみの夢を理解し応援したのだ。
もしかしたら、めぐみが歌手になる決心を本当の意味でしたのはその日かもしれない。


家に帰り母親とは話をせずに父親の帰りを待った。
自分の考えを丁寧に話したら父親は条件付きで歌手を目指す事を認めてくれた。
てっきり歌手を諦めさせ、大学に進学させるよう言い聞かせてくれると思っていた母親は驚いたが元々この夫婦は父親の方が強かった。
条件付きということで母親も同意した。




憂いが無くなっためぐみは本来の彼女の姿を取り戻し、毎日明るく過ごしていた。
PTAや学校と約束した模試でA判定を取ることは志望校がないのでめぐみは対象外だった。
それでも期末テストは受けなくてはならない。しかし、めぐみの成績は元々優秀で慌てることもなかった。


そんな期末テストが迫っている頃。
試験期間中は合唱の練習は休みと皆で決めていた。
練習がないので普段より早く学校を出た。
通学路の途中にある幼稚園から元気な歌声が聞こえる。
そうか、今日は七夕だ。
子供たちは自分で願い事を書いた短冊を笹に飾り、車座になって七夕の歌を歌っていた。
空を見上げると、雨こそ降ってはいないが今夜は天の川を期待するのは酷だ。
朝は太陽が顔を出していたがやはり梅雨だった。
めぐみは子供の頃から思い返しても、晴天の七夕の記憶は無い。

みんな、どんな願い事を書いたのかな。
子供達は無邪気で世間体も現実の厳しさも関係なく願い事を書いたことだろう。
悩むとすれば、沢山ある願い事のうちどれを書くかだろう。

めぐみは優しい目で子供達を見守っていた。
子供達の歌声に合わせて、人に聞こえない程度の声量でめぐみも歌った。

大人になってから、七夕に願い事を短冊にしたため飾る機会は減った。
今ならなんの迷いもなく願い事は決められる。
短冊を飾ることは出来ないが、心の中で短冊は揺れている。
歌手になれますように。







明日から夏休み。
ホームルームも終わり、廊下でみどり先生に声をかけられた。
「杉田さん」
「なんですか?みどり先生」

みどり先生は普段からよく見せる、ちょっといたずらっ子っぽい笑顔でめぐみを見ていた。
「はい」
みどりはめぐみにそれを差し出した。

















めぐみは楽屋で出番を待っていた。
夏恒例となりつつある、テレビ曲の音楽特番。
毎年、少しずつ放送時間が長くなり、出演者も増えている。
めぐみは昨年に続きて2度目の出演だった。
番組は生放送と録画を織り交ぜて放映される。
めぐみは録画組みの方だった。
沢山の出演者、特にバンドグループも出演しているので自分の収録タイミングが読みにくい。事務所はこの日は一日この番組に拘束されると踏んで他の仕事を入れていなかった。

めぐみは家から持ってきた読みかけの本を開いていたが、開いただけで文字は追っていなかった。
スタジオの入口に飾られた七夕飾りを観て、今日は七夕だと思いだし、11年前の事を振り返ったいたのだ。

「めぐみ」

マネージャーがめぐみに声をかけた。

「どうしたの?また、高校の担任の先生を思い出していたの?」
「え? なんで分かるの?」
「あなたは顔に出るのよ。いつも聞かせてくれる・・・中村先生だっけ? その先生の事を話すときはいっつも同じ顔をしているのよ、あなたは」
「そうなの?」

めぐみは顔を両手で覆った。
「あなたは分かりやすいのよ。もし、男を作ったら一発でばれるわよ」
「え~。もしかしたら今でも彼氏の一人くらいいるかもよ」
ちょっとむくれて歳の近いマネージャーに反抗した。
「居ないわよね」
「・・・・・居ないわよ」
ちょっと拗ねて答えると、二人して笑った。

「そろそろ準備しましょう」
「はい」

めぐみは結局1ページも進まなかった本に栞を挟んだ。
それは11年前にみどり先生から貰ったもの。
生物の授業で見慣れた中村先生の文字で書かれた短冊。

『杉田さんが歌手になれますように』

めぐみはいつもの笑顔で本を閉じた。

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コメント 2

CYPRESS

ふむふむ、
いいんじゃないですか(^.^)。

七夕の思い出と言うより、連想するのは野生のヤマユリですねぇ。
物心がつき七夕を意識する歳の頃、近所の雑木林に入ると群生という程は在りませんでしたが、かなり在りました(^.^)。
緑陰の中で目を見張る色。
直ぐに分かる芳香。

さて、『僕と彼女と彼女の生きる道』のDVDboxも手に入れました。
再び観始めるキッカケが芽生えるのを待ってる今日この頃。
ただ、サントラ盤も手に入れたんですが、先日凄くキレイなケースのサントラ盤も買ってしまいました(笑)。
マニア買いではなく、以前に買ったのを完全に忘れていたからです(爆)。
by CYPRESS (2014-07-19 00:48) 

maeboo.

CYPRESSさん、こんばんは
年2回の更新、よく見つけますね(笑)

お!サントラまた買ったんですか(笑)
私もたまに同じ本を買いますが、サントラは流石に・・・
by maeboo. (2014-07-19 23:54) 

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