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Respect

二次小説です。





Respect

「お父さん、行って来るね」
「うん。よろしく伝えて」
「わかった」

秋本家のリビングでみどりは隆行と話していた。
そんな様子を白い花が飾られた横、写真立ての中で、みどりの母も見ていた。






5月の晴天の日曜日
みどりは切符を購入し電車に乗り込んだ。
ゴールデンウィークは先週終わったが、気持ちいい気候は多くの行楽客を誘惑した。
子供連れの一家や、ハイキングスタイルの年配夫婦、大学生らしき若いカップルもいた。
みどりはボックス席の窓際の席に座る事が出来て、去り行く景色を見送っていた。

みどりは結婚した年の事を思い出していた・・・
思い出と戯れていると、あっという間に目的地に到着した。



秀雄の故郷の駅前はあまり変っていなかった。
みどりはゆっくりと辺りを見ながら歩いた。
そして、思い出がいっぱい詰まった教会の前に立った。

教会の中では母の日の行事が行われていた。
みどりはさっき電車の中で思い出していたことを再び呼び戻した。





2003年5月、結婚し報告を終えた秀雄とみどりは自宅のアパートへ帰る電車の中で話をしていた。
結婚式、結婚報告と二週連続しての帰郷だった。

「中村先生、もうすぐ母の日ですね」
「でも、こう度々は田舎に行けませんね・・・」
「お花を贈りましょう」
「そうですね、みどり先生」

流れ行く綺麗な夕焼けを車窓から見ていた。

「中村先生?母の日って、どうして5月の第2日曜日なんでしょう?」
「あ、それ子供の頃に聞いたことあります」
「どうしてなんですか?」
「僕は小さい頃、あの教会で合唱をしていたじゃないですか、時々教会の行事でも歌を歌ったんですよ。母の日にも行事がありました。無事に歌い終えて、神父さんと話している時に誰かがみどり先生と同じ事を聞いたんです」
「へえ」
「神父さんは教えてくれました。アメリカで、亡くなった母親の追悼を教会をした人がいたそうです。これが段々と広まったと言われています」
「そうなんですか」
「でも、神父さんは教えてくれました。他の国ではもっと前の頃から母の日はあったそうです。例えばギリシャ神話などにも出てくるそうですよ。」
「はい」
「神父さんは僕達に言いました。いつの時代だろうと、どこの国であろうとも、お母さんを大切にする気持ちは変りません。家に帰ったら、お母さんにありがとうと言ってください。お母さんがそばにいなかったり、天国にいる人は、心の中で感謝してください。あ、父の日も忘れちゃ駄目ですよって」
「そうなんですか・・・。中村先生?明日、学校帰り一緒にお花屋さんに行きませんか」
「はい。・・・行きましょう」






教会の母の日の行事は終わったようだ。
みどりは人のいなくなった教会に入った。
ステンドグラス越しの光に包まれてしばし時を過ごした。

時計を見てみどりは教会を出た。


教会を出てすぐにフラワーショップがあった。
あらかじめインターネットで駅周辺の花屋の所在を調べておいたのだ。


「ごめんください」
「いらっしゃいませ」
「あの、電話でお願いしていました中村ですが」
「はい、お待ちしていました」

そういうと、店員はショーケースの隅っこに用意してあったフラワーアレンジメントを出してきた。
店員はそれをみどりに見せる。

「お電話でお聞きして、こんな感じに仕上げてみましたがいかがでしょうか?」
「とても素敵です。ありがとうございます」

みどりは会計を済まして、花を抱えながら嬉しそうに外に出た。


突然韮崎を訪れ、一緒に秀雄の実家に向かった道を今日は一人で歩いていく。
王仁塚の桜も、眞原の桜並木もすっかり花は散っていた。
みどりは大事に抱えているアレンジメントに目を移す。
カーネーションは誇らしげに咲いていた。

みどりは歩きながら、またあの年のことを思い出す。





二人は学校帰りに花屋に立ち寄っていた。
季節柄、『母の日には花を贈りましょう』というポスターが貼られていた。
予め、店・・・というよりチェーン店で用意している花束やアレンジ、鉢植えがあり、店員はパンフレットを使い薦めてきたが、ふたりはじっくりと選んだ。
でもやっぱり定番のカーネーションに落ち着く。

「中村先生、なんで母の日にはカーネーションなんでしょう?」
「みどり先生、それも田舎の教会の牧師さんに教わりました。十字架に架けられたキリストを見て聖母マリアが涙を流したところに咲いた花という言い伝えがあるそうです。それに前にもお話したアメリカでのお話ですが、母親一人で子供達を育てたお母さんが亡くなり、娘さんがその追悼の思いで教会で白いカーネーションを配ったんだそうです。お母さんも娘さんもキリスト今日を深く信仰していましたから、そのカーネーションの由来も聞いていたんでしょうね」
「そうなんですか」
「なかなか毎年、母の日にあわせて実家に帰ることも出来ませんから。だからせめて毎年、田舎の母にカーネーションを送ることにしているんです」
「はい」
「教会で牧師さんにそのアメリカの親娘の話を聞いてもピンと来なかったんですが、僕も父を亡くし、母親ひとりを田舎に残して出てきました。今になって、この話の事が印象深くなっているんですよ」
「はい。じゃあ、今年もカーネーションを贈りましょう。えーと何色がいいかな?・・・確か、白は亡くなったお母さんに贈るんですよね」
「そうですね、先ほどの教会で配ったカーネーションが白だったから、そういう風に言われていますね。でも白には尊敬の意味もあるらしいですよ。本人が好きな色を贈ればいいんでしょうけど・・・。」
「でも、気にするかもしれないから白はやめましょうか」
「そうですね、母さん、ご近所さんに、『うちの息子の嫁が白いカーネーションを贈って来たのよ、これってどういう意味かしら?』って言ったりして・・・」
「お義母さんはそんなこと言わないですよ!」
「はい、冗談です」
「ふふふ」
「カーネーションっていろんな色があるんですね」
「そうですね、赤だけじゃ淋しいですからオレンジにピンク、黄色」
「カラフルにお願いしてみましょう」

店員を呼んで、アレンジを相談した。
パンフレットには載っていない、秀雄とみどりだけの気持ちのこもったアレンジが出来上がった。

みどりが会計をしようとすると、秀雄が制した。

「え?」
「あの、もうひとつお願いしたいんですが」








みどりは秀雄の実家のチャイムを鳴らした。

「はーい」

元気そうな佳代子の声が聞える。

― 秀雄さん、今年もお母さんにカーネーションを贈ります。今年は直接届けに来ちゃいました。今年のアレンジはどうですか?結構素敵でしょ。ふふふ。そうそう、あの時秀雄さんがしてくれたように私のお母さんにも白いカーネーションをちゃんと渡していますよ。 ―

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