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麗らかな時 [書斎の本棚]

二次小説です。





麗らかな時

二人の生活が始まり、アパートの部屋も片付いた。
結婚することを決めた二人は、迷うことなく日々を過ごしていたが、やはりみどりの父、隆行に二人の結婚を認めてもらいたかった。


新学期も始まり、教え子たちも受験シーズン真っ盛りとなる。
相変わらず、生物の授業ではめぐみ以外生徒は、他の科目の教科書や参考書を開いている。
ただ、秀雄は残された時間の限り、全力を尽くすだけだった。
そして生徒達の焦りも手にとるように分った。





新学期が始まって最初の日曜日。
春のやわらかい日が降り注ぐいい天気だった。
最近、引越しや生活用品の買い物などで、休日をゆっくりと過ごす事が出来なかったのでみどりの提案で午後からデートに出かけた。


あまり遠くには出かけることが出来ないので、横浜に行くことにした。
秀雄も通勤途中にある街なので、ある程度のことは知っているが、やはり就職するまでは韮崎にいたので、地元のみどりにはかなわなかった。

以前二人で行った、赤レンガパークや遊園地などの港湾地区ではなく、今日は山の手の方に行く事にした。




バスに乗って、元町で降りた。
秀雄とみどりと同様、春の陽射しに誘われたのか人出が多かった。
銀の専門店や綺麗なレースのお店、カバン屋さんに、アクセサリーショップなど、冷やかし専門だったが見て廻った。


一通り巡ると、急な坂道を登っていく。


「みどり先生、結構急な坂ですね」
「中村先生、大丈夫ですか?」
「はい」

みどりは秀雄の体を気遣ったが、最近の秀雄はあまり胃痛にも襲われず、元気いっぱい並んで坂道を登った。

秀雄が初めて歩く道だったが、フェンス越しに多くの十字架が見え隠れし始めた。

「あ、外人墓地ですね」
「中村先生、初めてですか?」
「いや、何度か来た時はありますが、ここを通ったのは初めてです」

やがて、坂を上りきると秀雄にも馴染みのある景色が広がった。
外人墓地を挟んで通りの向こう側にはいかにも横浜を連想させるような洋館が建っている。
レストランのようだ。

外人墓地の入口には団体さんが到着したばかりとみえて、中に入りきれない程の人が溢れていた。
二人は人ごみを避けて、海の広がる方へ歩き出した。



みなとの見える丘公園の方に歩き出すと、右手に洋館が見える。

「中村先生、ここで明治の頃をイメージしたドレスを着て、記念撮影することも出来るんですよ」
「へえ、みどり先生のドレス姿見てみたいな」
「へへへ、実は高校生の時に友達と着てみて、撮ったんですよ」
「見てみたかったな」
「あの写真、どこかあったかな。でも、すごいフリフリのドレスで恥ずかしいなぁ」

そんなみどりのドレス姿を想像しながら、やがて、ウェディングドレス姿に変っていった。
これまで、二人で生活していた隆行は今頃、どんな思いをしているのか・・・。

ちょっと顔を曇らせた秀雄の表情に気付き、みどりは秀雄の腕を取った。

「中村先生。行きましょう」





公園に入ると、右手には特徴的な建物とその前に広がる庭園が広がった。
ガイドブックや、テレビでもよく使われるアングルだった。
展望台にとりつくと、二人して港を眺めた。
沢山の倉庫と、港を行き交う船舶。
何より眼の前にどーんと威圧しているのがベイブリッジだった。

「中村先生、私が子供の頃はまだベイブリッジが出来ていなかったから、もっと海が見えたんですよ。でも、この橋がなかった頃の景色、思い出せないなぁ」
「僕が来たときにはもう出来ていたから、想像付きませんね」
「あ、中村先生、横浜港を周遊する遊覧船に乗ったことあります?」
「いや、無いです」
「そうですが、ベイブリッジの下を通って、結構楽しめますよ。陸地から海を見るのも楽しいですが、海の方から横浜の景色を観るのもいいです」
「今度、また乗りましょう」
「はい」



二人は再び外人墓地の前に行ったが、相変わらず人でいっぱいだった。
諦めて、通り過ぎる。


重厚な建物の教会を曲がり、普通の住宅街をみどりは進む。

「みどりさん、どこに行くんですか?」
「ふふふ」

すぐにお店が見えた。
可愛い佇まいの店で、店の奥にはブリキのおもちゃが展示されていた。

「わぁ、なんか懐かしいな」
「中村先生、こんなおもちゃで遊んでいたんですか?」
「え?・・・いや、僕の頃にはもっと固い金属か、プアスチックでしたね。でも、遊んだことが無くてもなんか懐かしいと思えてきます」
「そうですね」

そんな話をしていると大きなわんちゃんが足元を通った。

「わっ」
「かわいい」

どうやら、このお店のアイドル・・・いや、主のような存在らしい。


外に出ると、みどりは秀雄の手を引き、さらに裏側に周った。
奥に進むと、ちょっと陽射しが隠れたがその先にチラチラと明かりが見える。
それはクリスマスのイルミネーションだった。

「え?」
「ここでは一年中クリスマスなんですよ」
「すごい、まだ半年以上先なのに、なんか変な感じですね・・・ん!?」

中に入ると、ここにも大きなわんちゃんが床にぺたんとなって、眼だけで二人を見上げている。

「こんにちは」

みどりが声をかけると、腰を上げて挨拶に応えてくれた。




歩き通しだったので、お茶にしましょうとみどりが提案する。
先ほどの聖公会を曲がり、しばらく歩くと、また可愛い洋館が見える。
みどりは嬉しそうに入っていく。明らかに前から知っている店らしい。
秀雄は、一人だったら入りづらいな、と思いながらみどりに続いた。

中に入ると、女性同士かカップルばかりだった。

みどりが進めるままにお茶を頼む。
秀雄はレモンティーを頼み、みどりはミントティーを頼んだ。

「実家を出て、もう丸6年近く経っているのに、横浜でもまだまだ知らないところがありますね」
「そうでね。・・・また来ましょうね」
「はい」
「あ、でも次のデートは、植物園がいいかな?前に行った時はまだちょっと寒かったから、淋しかったけど、そろそろお花もいっぱい咲いているんじゃないかな」
「そうですね。行きましょう」
「はい」

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