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ハーモニー [書斎の本棚]

二次小説です。





ハーモニー

「中村先生。また、来てくれましたね。」
「はい。」

秀雄はにっこりと笑った。

帰り支度を終えた二人は戸締まりをして、最後に教員室を出た。
梅雨にはまだ早いが、今日も天気ははっきりとしない。
秀雄のおりたたみ傘は今日も活躍する。
今年の夏はあまり暑くならないと長期予報が伝えていた。


駅まで歩く間、合唱の話の続きをする。


「中村先生、今日参加してくれた3人で丁度クラスの半分ですね。」
「はい。参加してくれた生徒達が楽しげに話しているのでそれが伝染しているみたいです。」
「田中君があんなに楽しそうに歌ってくれるとは思っていませんでした。」
「田中君はもともと、苛々しやすい生徒でしたけど、最近はすっかりリラックスしているようですね。」


秀雄は二年生の時の万引き騒動を思い出していた。
盗撮の件はめぐみの胸に収められたままだった。




翌日も、その次の日も一人ずつだが、合唱に新しいメンバーが増えた。
秀雄とみどりは全員に参加して欲しかった。
でも正直言えば、絶対参加してもらいたい生徒がいた。
ある意味、守より苛立ちを隠せない生徒がいた。

吉田均だった。




ある日、一日の最後の授業である生物の授業を終えて秀雄はそのまま帰りのホームルームを済ませた。
その後、クラスの半分の生徒達が合唱の練習の準備をしていた。
だが、自宅に帰る生徒もいれば、塾の始まる時間まで放課後の教室で勉強をしている者もいる。


教室を出て、帰るクラスメイトをめぐみが追い掛けていくのが見えた。

「ねえ、一度でいいから合唱に参加しない?」
「めぐみ、ごめんね、これから塾があるんだ…でも、ちょっと興味あるから明日ちょっと見学させてもらうわ」
「本当!待ってるから。」
「じゃあね」
「バイバイ」


教室では守も塾の時間まで自習をしている男子生徒達に声をかけていた。

「なあ、塾が始まるまで時間あるんだろ。ちょっと、やってみないか?」
「俺、歌下手だからいいよ。」
「俺だって音痴だよ。でも、不思議とスカッとするんだよ。最近、楽しくなってきたんだよな。」
「うーん、考えておくよ。」

守が合唱に勧誘している時、みどりが合流する為に教室にやってきた。
秀雄の横に立つと、みどりはそんな守の姿に気がついた。先程、廊下でめぐみの呼びかけも見かけていた。

秀雄はみどりを見て、少し微笑んだ。
みどりも頷いた。


「じゃあ、合唱の練習を始めます」
「はーい。」

一部の生徒を残して、教室を出て行った。

秀雄とみどりも螺旋階段へ歩き出した。

「みどり先生、楽譜ちゃんと全員分ありますよね。」
「はい。勿論です。」



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