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歓喜 [書斎の本棚]

二次小説です。


この小説は勿論「僕の生きる道」の二次小説ですが、イメージを湧かせたのがこのドラマを通じて知り合った、もんきーとーいさんのイラストです。

もう一つのブログ「四畳半の日記帳」に常に表示されているイラストがあります。

100000HITお祝い.jpg

初代のホームページ版「書斎は四畳半」からカウントを始めているアクセスカウンター。10万ヒットの際にお祝いのメールと共にイラストを頂きました。「歓喜」という二次小説のタイトルも、もんきーとーいさんがイラストを描くイメージにしたタイトルそのままです。
その経緯は「Delight」というエントリーを読んでください。
今から約3年前の事です。



では、以下はそのイラストを観て私が描いたお話、歓喜です。

生徒達の夏休みも終わり、2学期が始まった。
受験生にとっては、まさに正念場の季節となる。


2学期最初の土曜日、授業はなくホームルームと希望者だけの進路指導が行われた。




「岡田先生、今日飲みに行こうよ。駅ビルのビアガーデン、来週までで営業おしまいみたいだからさ」
「え~、どうしようかな」
「割引券あるんだけど、今シーズン限りなんだよ。勿体無いだろ」
「それって、飲みに行く度に貰える奴じゃないですか。きりが無いですよ」
「いいじゃん、行こうよ」

彼らは一年生の担任であり、生徒達もまだそれ程ピリピリしていない。
教師もまた、のんびりしていた。





「みどり先生!!」

みどりはその声に気がつき、職員室の入口の方に振り向いた。
スーツ姿の愛華とカジュアルな格好の萌が立っていた。

「あら、いらっしゃい」
「お、黒木に鈴木じゃないか。どうした?」

久保も気がつき、席を立った。
職員室の前方で話していた古田教頭と麗子もやってきた。


愛華と萌はみどりの前に立った。

「みどり先生、内定が出ました」
「そう、よかった。この前言っていた出版社?」
「はい」
「おめでとう」
「ありがとうございます」

リクルートスーツ姿の愛華がニッコリと微笑む。

「ねえ、みどり先生、みんなはどうなの?」
「内定?」
「そう」

萌の質問にみどりは口元に笑みを浮かべながら、ちょっとじらした。
秀雄の教え子達、3Gの生徒達は卒業してからも皆よく陽輪学園を訪れ、副担任であり秀雄の妻であるみどりに色々報告していた。
それは3Gの生徒の不文律のように続けられ就職に関しても同じだった。
萌や愛華は当然、皆報告に来ていると思っていたのだ。

「みどり先生、あんまりじらしちゃ可哀想よ」

麗子が久保の後ろから顔を出して言った。

「実はさっきまで黒木の話題をしていたんだよ」

久保が言う。

「え?私のこと?」
「そう」

赤井が全部言いたいけど、我慢してそれだけ言った。

「何を話していたの?」

萌も意味が解からずキョトンとしている。

「実はね、黒木さんが今日報告に来てくれたからね・・・。G組生徒で就職を希望している人達全員に内定が出たのよ」
「え、そうなの?」

萌は驚きながら言った。

「私が最後だったんだ・・・」
「でも、第一志望だったんだろ」
「うん。絶対そこで仕事したかったんだ」

高校時代、どちらかというと思いつきで行動していた愛華も大学生活の中でだいぶ変わったようだ。



「大学はまだ夏休みなんでしょ」
「そう。内定出たから、遊ぶぞ!ね、萌」
「え?私は就職先に何回か呼ばれているから、そうそう遊んでられないのよ。それに卒論だってあっという間よ。折角内定貰っても卒業できないと意味が無いわよ」
「え~。息抜しようと思ったのに」
「その代わりお祝いに今からランチ、ご馳走するわよ」
「やったー」
「じゃあ、先生。また来ます」
「うん。気をつけて帰るのよ」
「みどり先生、もう高校生じゃないのよ、私達」

愛華が振り向いて言った。

「いつまで経っても、私たちの生徒なんだよ」

白髪が目立ち始めた古田が笑って言った。
他の教師達も古田の言葉に無言で同意していた。

「ふふふ。さようなら」
「さようなら」
「さようなら」





二人を見送った職員室では、元3Gの生徒達の話でまた盛り上がる。

「みどり先生、本当にすごいわよ。この時期に女子も含めて全員内定でしょ」
「はい、大学院に進む秋山君、ついこの間学生結婚して来年お母さんになる阿部さん、お医者さんになるため医学部で頑張っている田岡君、歌手を目指している杉田さん、それに・・・吉田君。彼ら以外のみんな、全員内定が出ました」
「しかも、殆どが第一志望ですよね。僕、あの年の受験結果を思い出しちゃいました」

岡田が興奮気味に言った。
秀雄の最後の教え子達、3Gの生徒達は吉田以外全員が合唱を続けながら第一志望の大学に合格していた。
そして、吉田も翌年にはちゃんと希望の大学に合格していた。






教師達も授業の無い土曜日なので比較的早い時間に帰る事が出来る。
赤井は半ば強引に岡田を引っ張ってビアガーデンへと向かって行った。
久保は文部科学省からのアンケートに何か記入していた。
麗子も、残業があるような無いような・・・まだ残っていた。

「じゃあ、お先に失礼します」
「お疲れ様」
「お疲れ」

多分、あの二人はこの後どこかに行くのだろうと勝手に気を回したみどりはまだ明るいうちに家路につく。
先週まで残暑が厳しくて仕方が無かったのだが、ここ数日、それが信じられないくらい過ごしやすくなった。




学校を出てすぐ公園がある。
小高い丘の上にある公園で町並みがよく見渡せる。その公園のシンボルのように丘の頂上に大きな木が一本立っている。
その脇を通るのがみどりのいつもの通勤路だった。


その木が見えた頃、向うから誰か一人走ってきた。
吉田均だった。

「みどり先生」
「吉田君!?どうしたの?」
「みんな、内定出たって聞きました」
「そうよ。耳が早いわね」

萌から恋人の雅人へ、雅人がたまたま守と会っていたので守も知る事となり、守から吉田へと伝わった。
いずれにしても、一両日中には元3G全員に伝わる事であろう。
G組はそういう組なのだ。



均は息を整えてから、真っ直ぐ立った。

「みどり先生、僕・・・教師になろうと思うんです」
「え?」

みどりは本人からではないが、均が学部を転部したと聞いていた。
だが、教職を目指していたとは思わなかった。

「僕、一年遠回りしてるけど、お陰で本当にやりたい事が見えてきました。今日、みんなが内定が出たって聞いて、宣言したくなっちゃって。だからみどり先生が学校から帰らないうちにと慌てて走ってきました」
「そうなんだ」

みどりは嬉しかった。
秀雄は最後までプレッシャーに弱い吉田のことを心配していた。
合唱コンクールでもギリギリのところで踏ん張れたが、本番に弱い性格はそう直せるものではない。
だが、均は今日、言わなくてもいいのに敢えて報告に来た。
みどりはそれが嬉しかった。

「みどり先生、久保先生はまだ学校にいます?」
「いるわよ」
「そうですか。久保先生にも伝えたいので行ってきます」

吉田は屋上で久保と話したことを今でも覚えている。
『官僚になりたいのではなく、ならなくちゃいけない』そう指摘されたことを今でも覚えていた。
だから教師になる事を真っ先に、秀雄とみどり、そして久保に報告しようと思ったのだ。


均は学校を目指して駆け出した。

「吉田君!」

みどりが均を呼び止めた。

「はい」
「何の先生になるの?」

均は何も返事をしない代わりに、ちょっと照れたようにはにかんだ。
みどりはそれ以上、プレッシャーを与えちゃいけないと追求しなかった。

「また、遊びに来なさいね」
「はい」

均はまた駆け出した。




みどりはゆっくりと歩き出した。
丘の頂上、大きな木の脇を通りかかる。みどりはそこで足を止めた。
道をはずれ、ゆっくりと芝の間を進んだ。

青い空と白い雲は、つい先日までの夏色から少し秋の気配を感じさせる。
町を一望できる位置に立ち、みどりは嬉しくて嬉しくて仕方が無い気持ちを開放した。
風がゆっくりとみどりの髪をなびかせ、スカートの裾を揺らした。

「秀雄さんも嬉しいんですね」

その答えの代わりに爽やかな風がみどりの頬をすり抜ける。
目の前に広がる空は未来へと続くようだ。
それは生徒達の未来であり、みどりの未来でもある。

みどりは両手を翼のように広げた。




秀雄の歓喜の風を受け、未来はどこまでもどこまでも広がっていく。

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