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宿題 [書斎の本棚]

二次小説です。





宿題
観客席の真ん中、中央あたりの席で生徒達の歌声を聞いていた。


吉田均は秀雄から託されたタクトを軽快に振っていた。
生徒達の歌う「のばら」も均の指揮同様に軽やかに歌われ、観客の心をとらえていた。



初出場で三位に入賞した陽輪学園は、五年間の沈黙ののち、合唱コンクールに再び現われた。
それ以来、この大会には毎年出場している。

コンクール決勝の選曲は毎回「のばら」であった。



吉田が生徒を集め、合唱を始めた頃はピアノの伴奏はみどりが弾いていた。
非公式だった合唱も今年から正式に部となった。
顧問は吉田が務め、伴奏は生徒から選出した。

均は来年から指揮も生徒に任せるつもりだった。



みどりは誰より早く会場に足を運び、客席についた。
まだ、まばらな客席で、みどりは右隣の席も確保した。

しばらくして理事長の秋本、教頭の古田をはじめ、麗子ら教師達も応援に来ていた。

「先生」

後ろを振り向くと、栞、守、愛華がいた。
他の卒業生達も駆け付けたかったが、大学病院勤務の雅人、決算期で休日出勤の萌、臨月のりな、歌手活動が多忙
となっためぐみ達は泣く泣く諦めて、それぞれ心の中で応援していた

みどりと「秀雄」の席を中心にみな座って生徒達の歌声を聞いていた。
生徒達は歌い上げた。

吉田均が振り返り、頭を下げた。
頭を上げた均はまっすぐみどりを見た。
いや、秀雄を見たのかもしれない。

均は自信に満ちあふれた笑顔を見せた。

みんなの真ん中で秀雄はほほ笑みながら頷いた。
均にはその姿が見えるような気がした。


まもなく歓喜の時が訪れる。
均にも秀雄にも確信があった。

均はやっと恩師から出された宿題を提出できたような気がした。





司会者が結果を告げる。

『最優秀校は、陽輪学園です・・・』

今日は9年前に秀雄が旅立った、3月16日だった。

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