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星に祈る、心に誓う [書斎の本棚]

二次小説です。





星に祈る、心に誓う

期末試験も終わった。
試験期間中は合唱の練習も休止していたが、試験最終日の今日から再開した。


久し振りの合唱は楽しかった。
いつのまにか、生徒達にとって合唱はなくてはならないものとなっていた。


教師達による答案の採点の間、夏休み前に短い休みがある。
だが、受験生には塾に補習に、そして合唱の練習に大忙しだった。


家庭教師が今日はやって来ない雅人と、塾には通っていない萌は最後まで合唱の練習に参加した。
その後、図書館によって勉強をした。

目指す学部の違う二人はいつの間にか集中するため背中合わせに座るようになっていた。
萌には雅人の集中力を背中越しに感じていた。
以前の、雅人とは違った。

雅人の変化には萌だけでなく、母親である久美子にも伝わっていた。
もう、合唱の練習や勉強のことをガミガミ言わなかった。
言う必要が無くなったのだ。





勉強を終えて二人が図書館を出る頃にはすっかり辺りは暗くなっていた。
今にも泣き出しそうな空に見えたが、徐々に雲は去りつつあった。

「あ、星が出てきた」
「ん・・・うん」
「早く梅雨、明けないかな」
「ああ」

相変わらずぶっきらぼうだが、萌の横に並んで雅人は歩調を合わせて歩いていた。

「明日、七夕だな」
「あ、そうだね。・・・明日、晴れるかな」

その萌の言葉には雅人は答えずに、空を見上げていた。



雅人の家はここを曲がれば近かったが、萌を駅まで送る為、そのまま、まっすぐに歩いた。
駅周辺まで来ると、ビルや店の明かりで星がはっきりと見えなくなってきた。


駅の構内に入ると、大きな七夕飾りがあった。
駅ビルのショッピングセンターが用意したものらしく、特設のテーブルの上には短冊とマジックが用意されていた。

親子連れが一緒に何か願い事を書き込んでいた。


そんな様子を見ながら、萌は改札の方に行こうとした。
『もうここでいいよ』と雅人に言おうとした時、雅人は笹飾りに近づいていった。
それに気付いて、萌も一緒についていく。


親子連れは短冊に願い事を書き終えて、テーブルは空いた。
雅人は躊躇しているのか、笹に近寄る親子の様子を見ていた。

「ねえ、書こう」

萌が助け舟を出した。

「ああ」

二人は化粧箱に入れられた色とりどりの短冊から一枚ずつ手にとった。
雅人は透明なビンに数本入っているサインペンを2本取り出し、1本を萌に渡した。

「ありがとう」

二人は並んでパイプ椅子に座った。


萌はサインペンのキャップを外して、すらすらと短冊に願い事を書き始めた。

 『二人とも希望の大学に入れますように 萌』

萌はサインペンにキャップをはめて、ビンに戻した。
横の雅人の短冊を見てみると、まだ何も書かれていなかった。

あれ?と思って雅人の顔を見てみる。
雅人はいつになく真剣な顔をしていた。
萌に見られていることに気がついた雅人は

「見るなよ」
「ふふふ・・・。先につけてくるね」

萌は短冊を振りながら、駅のコンコースのど真ん中にある、大きな大きな笹の方へ歩いていった。
比較的空いているところを見つけて、短冊を笹にくくった。


萌は雅人のもとへ戻ってくる。
雅人はまだ、何も書いていなかった。

「え?まだ書いていないの?」

雅人はサインペンにキャップをはめて、ビンに放り込んだ。
何も書いていない短冊を箱の中に戻した。

「行こう」

雅人は立ち上がった。

「え?」
「もう、いいや」
「でも・・・」
「家に着くの遅くなるぞ。帰ろう」

雅人は改札の方へ先に行った。
萌は慌ててカバンを持って追いかけた。


雅人は足を止めた。
萌はその脇を通り、改札を抜けて振り返った。

「じゃあね。おやすみ」
「・・・おやすみ」

雅人は軽く手を挙げながら答えた。
萌は歩きながら、手首の先だけ短く振ってバイバイをした。
雅人はゆっくりと帰っていった。







梅雨らしくどんよりとした空模様の七夕の朝だった。
萌が家を出るときに見た天気予報では、今晩晴れる可能性は五分五分だという。


駅の改札を出ると、昨日見た大きな笹が目に飛び込んでくる。
近づきながら自ら飾り付けた短冊を探した。
遠めでもすぐに見つけることが出来た。


段々近づきながら、笹の上部に目を移す。

「あれ?」

他に比べても随分高い位置に短冊が飾られていた。

「どうやって、あんなところに飾ったんだろう」

萌は笹のすぐ脇まで立って見上げた。

「あ!」


『最後までみんなで合唱が出来ますように 3G』

萌の見慣れた、雅人の文字だった。
萌は笑いながらしばらく眺めていた。

そして手を合わせて、祈った。

「最後までみんなで合唱が出来ますように・・・」

目を瞑る萌の頭の中では、3Gのみんなとピアノを弾くみどり先生と、そして指揮をする中村先生の姿が浮んでいた。
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