十五夜 [書斎の本棚]
二次小説です。
十五夜
「みどり先生。どうですか?」
「あら、杉田さん、初めてなのに上手よ」
「そうですか?」
「私なんて、最初に作った時は悲惨だったのよ」
「みどり先生でも、そんなことあるんですか?」
「勿論、あるわよ。お料理は母親から習ったんだけど、全部教わらないうちに亡くなっちゃって・・・。お団子は父から習ったのよ。今でもお料理は父には敵わないの」
「ふふふ」
歌手になる夢に向かって着実に一歩一歩進んでいる杉田めぐみは、みどりの家に来ていた。
めぐみは所属事務所の仕事で、子供達を相手に歌う事も多かった。
今夜は十五夜のお月見イベントの仕事だった。
めぐみは歌を歌うだけでなく、子供達をもっともっと楽しんでもらいたかった。
そこで思いついたのが、お月見団子を作って飾る事。
これは名案だと思ったが、めぐみは今までお団子なんて作った事が無かった。
実家の母親はお友達と旅行に行って、残っているのは父親と弟だけ。
アルバイト先のコンビニの奥さんや、お婆ちゃんもめぐみが抜けた分、忙しくさせてしまっている。
今、頼れるのはみどりだけだった。
「ただいま」
隆行が帰ってきた。
「あ、お帰りなさい」
「お邪魔してます」
めぐみがエプロン姿のまま隆行に挨拶した。
「いらっしゃい。お!お団子だね。どれどれ・・・」
隆行は手を伸ばそうとするが、みどりが手を叩いた。
「駄目よ。これは杉田さんが子供達のために持って帰るんだから。お父さんのはこっちね」
みどりはテーブルの端を指差した。
そこには上新粉や餡の材料など並べられていた。
まだ、団子の形にはなっていない。
「久しぶりにお父さんのお団子食べたくなっちゃった」
ちょっと頬を膨らませた隆行は、それを聞いて顔を緩ませた。
「はーい。着替えてくるね」
隆行は自分の部屋へ消えていった。
「みどり先生、理事長、本当にありがとうございました。三宝まで貸して頂きまして」
「いいの、いいの」
「でも、そんな大きな荷物、両手に抱えて大丈夫?」
めぐみはさっき自分が作ったばかりのお団子や、隆行が手伝ってくれた餡子を巻きつけた団子や、食紅を使って目を入れたウサギの形をした団子、それに三宝を抱えていた。
「大丈夫です。さっき連絡して、事務所の人が駅まで迎えに来てくれますから」
「じゃあ、僕がそこまで手伝うよ」
「いえ、とんでもないです。理事長、大丈夫ですよ」
「いいのいいの。ちょっと買物もしたいから、ついでだよ。じゃあ、みどり、行ってくるね」
「うん、お願いね」
「みどり先生、では失礼します」
「しっかり歌ってね」
「はい」
めぐみは隆行と共に出て行った。
部屋には、3人で作ったお団子がまだ残っている。
三宝をめぐみに貸したので、みどりはそれらを皿に並べた。
1時間半位経って、隆行が帰ってきた。
「お父さん、ありがとう」
「うん」
みどりは、2階に上がりカーテンを開けた。
テーブルにお団子を置き、隣の自分の部屋から秀雄の写真を持ってきた。
部屋の明かりは点けなかったが十五夜の月明かりで部屋は照らされ、写真たての中の秀雄の顔もはっきりと見えた。
今年は残暑も厳しかったが、部屋に入ってくる風は心地よかった。
すぐに秋は深まるだろう。
秀雄とみどりはしばらく二人っきりで月を眺めていた。
月はやさしく二人をみつめていた。
十五夜
「みどり先生。どうですか?」
「あら、杉田さん、初めてなのに上手よ」
「そうですか?」
「私なんて、最初に作った時は悲惨だったのよ」
「みどり先生でも、そんなことあるんですか?」
「勿論、あるわよ。お料理は母親から習ったんだけど、全部教わらないうちに亡くなっちゃって・・・。お団子は父から習ったのよ。今でもお料理は父には敵わないの」
「ふふふ」
歌手になる夢に向かって着実に一歩一歩進んでいる杉田めぐみは、みどりの家に来ていた。
めぐみは所属事務所の仕事で、子供達を相手に歌う事も多かった。
今夜は十五夜のお月見イベントの仕事だった。
めぐみは歌を歌うだけでなく、子供達をもっともっと楽しんでもらいたかった。
そこで思いついたのが、お月見団子を作って飾る事。
これは名案だと思ったが、めぐみは今までお団子なんて作った事が無かった。
実家の母親はお友達と旅行に行って、残っているのは父親と弟だけ。
アルバイト先のコンビニの奥さんや、お婆ちゃんもめぐみが抜けた分、忙しくさせてしまっている。
今、頼れるのはみどりだけだった。
「ただいま」
隆行が帰ってきた。
「あ、お帰りなさい」
「お邪魔してます」
めぐみがエプロン姿のまま隆行に挨拶した。
「いらっしゃい。お!お団子だね。どれどれ・・・」
隆行は手を伸ばそうとするが、みどりが手を叩いた。
「駄目よ。これは杉田さんが子供達のために持って帰るんだから。お父さんのはこっちね」
みどりはテーブルの端を指差した。
そこには上新粉や餡の材料など並べられていた。
まだ、団子の形にはなっていない。
「久しぶりにお父さんのお団子食べたくなっちゃった」
ちょっと頬を膨らませた隆行は、それを聞いて顔を緩ませた。
「はーい。着替えてくるね」
隆行は自分の部屋へ消えていった。
「みどり先生、理事長、本当にありがとうございました。三宝まで貸して頂きまして」
「いいの、いいの」
「でも、そんな大きな荷物、両手に抱えて大丈夫?」
めぐみはさっき自分が作ったばかりのお団子や、隆行が手伝ってくれた餡子を巻きつけた団子や、食紅を使って目を入れたウサギの形をした団子、それに三宝を抱えていた。
「大丈夫です。さっき連絡して、事務所の人が駅まで迎えに来てくれますから」
「じゃあ、僕がそこまで手伝うよ」
「いえ、とんでもないです。理事長、大丈夫ですよ」
「いいのいいの。ちょっと買物もしたいから、ついでだよ。じゃあ、みどり、行ってくるね」
「うん、お願いね」
「みどり先生、では失礼します」
「しっかり歌ってね」
「はい」
めぐみは隆行と共に出て行った。
部屋には、3人で作ったお団子がまだ残っている。
三宝をめぐみに貸したので、みどりはそれらを皿に並べた。
1時間半位経って、隆行が帰ってきた。
「お父さん、ありがとう」
「うん」
みどりは、2階に上がりカーテンを開けた。
テーブルにお団子を置き、隣の自分の部屋から秀雄の写真を持ってきた。
部屋の明かりは点けなかったが十五夜の月明かりで部屋は照らされ、写真たての中の秀雄の顔もはっきりと見えた。
今年は残暑も厳しかったが、部屋に入ってくる風は心地よかった。
すぐに秋は深まるだろう。
秀雄とみどりはしばらく二人っきりで月を眺めていた。
月はやさしく二人をみつめていた。
コメント 0