ずっと [書斎の本棚]
二次小説です。
以前書いた、長編の武志と香奈の物語。
あの作品は一度終了していますが、二人のある一日ということで。
ずっと
「・・・ん・・・・・・・・うーん」
「目が覚めましたか?」
「あ、寝ちゃったんだ」
「うん」
香奈は武志を起こさないように、ずっと半身を起したままでいたのだ。
「あ、ごめんね。香奈が横になれなかったでしょ」
「大丈夫。私はいつでも寝られるから・・・・。それより武志、少し疲れているんじゃない?家に帰ってゆっくり休んだら?」
「そうだね。今度はそうするよ」
そう答えた武志だったが、結局勤務時間が終わると香奈の部屋に顔を出して一緒に過ごし、その後仮眠室で眠るか、パイプ椅子に座りながら香奈のベッドに顔をあてて眠ってしまう毎日だった。
この病院に入院する際に、窓から海が見える部屋と山側が見える部屋のどちらでも選ぶことが出来た。
山側といっても、すぐそこが山なので眺望がいいという訳ではない。
入院患者の多くが海側を希望していた。
香奈は山側の病室を選んだ。
その理由は花畑が窓いっぱいに広がっていた。
自然の花畑ではなく、農家の植えた花畑だったが。
花畑にはたくさんの種類の花が植えられていた。
広がる景色は、黄色や赤、ピンク、青の花びらの色と、緑の葉の色が鮮やかだった。
この病室に入った頃も同じ景色だった。
だが、あの時この花畑を眺めていても、ちっとも楽しくなかった。
香奈が敬明会病院を離れ、武志に黙ってこの病院のホスピス病棟に移ってから一年が経った。
『もっと色んなことを話そうよ』
どこの病院に移ったか教えていなかったのに、武志はそう言って病室に現れた。
それどころか、この病院の勤務医となった。
そして・・・二人は結婚した。
コンコン♪
「香奈さーん。体温測りました?」
「はい」
香奈は看護師の木村に体温計を渡した。
香奈は武志が眠っているうちに体温を測っていたのだ。
香奈の手首で脈をとった木村は、記入簿にさっと書き入れて、
「じゃあ、お邪魔にならないように・・・」
と、武志に聞こえるように足早に病室を出ようとしていた。
最初はそれを気にしていた武志も、最近では気にしなくなっていた。
しかし香奈と木村が何やら目でやり取りをしていることに、武志は気が付いていなかった。
まだ、眠そうな武志に香奈は声をかけた。
「武志、こっちに来ない?」
「え?」
「もっと話をしたいの」
こんなことは初めてだった。
武志はちらっとドアの方をきにしていた。
「大丈夫よ。先生は知らないかもしれないけど、夕ごはんの時間までは誰も来ないわよ」
「・・・・・」
「ほら」
香奈は少し端っこに寄り、場所を作った。
武志は戸惑いながら、靴を脱いでベッドに上がった。
病室のベッドは狭かった。香奈と武志は並んでベッドの上に寝た。
寝ころびながらも、窓から花畑を眺める事が出来た。
「あの花は何ていうの?」
「え?どれ?」
「あの黄色いの」
「あー武志。前に私の店で買ってくれたことあるのに・・・」
「そうだっけ・・・」
「そうよ」
「でも、本当の目的は花じゃなくて・・・」
「え?何?」
「いや、なんでもない」
「ちょっと、言いなさいよ」
「忘れた」
「・・・・・フフフ」
「ハハハ・・・」
一度は離れた二人だけれど、たくさんの話をしてきた。
沢山、沢山の話をしてきたけれど話は尽きることはなかった。
「ねえ、武志」
「・・・・・・・・・・・・」
「武志?」
香奈が武志の方視線を落とすと、武志は香奈の肩に寄りかかり、かすかな寝息を立てていた。
「お・や・す・み・な・さ・い」
黄色や赤やピンクの花びらが夕陽のオレンジに染まり始めていた。
香奈は目を細め、その景色を眺めていた。
幸せだった。
以前書いた、長編の武志と香奈の物語。
あの作品は一度終了していますが、二人のある一日ということで。
ずっと
「・・・ん・・・・・・・・うーん」
「目が覚めましたか?」
「あ、寝ちゃったんだ」
「うん」
香奈は武志を起こさないように、ずっと半身を起したままでいたのだ。
「あ、ごめんね。香奈が横になれなかったでしょ」
「大丈夫。私はいつでも寝られるから・・・・。それより武志、少し疲れているんじゃない?家に帰ってゆっくり休んだら?」
「そうだね。今度はそうするよ」
そう答えた武志だったが、結局勤務時間が終わると香奈の部屋に顔を出して一緒に過ごし、その後仮眠室で眠るか、パイプ椅子に座りながら香奈のベッドに顔をあてて眠ってしまう毎日だった。
この病院に入院する際に、窓から海が見える部屋と山側が見える部屋のどちらでも選ぶことが出来た。
山側といっても、すぐそこが山なので眺望がいいという訳ではない。
入院患者の多くが海側を希望していた。
香奈は山側の病室を選んだ。
その理由は花畑が窓いっぱいに広がっていた。
自然の花畑ではなく、農家の植えた花畑だったが。
花畑にはたくさんの種類の花が植えられていた。
広がる景色は、黄色や赤、ピンク、青の花びらの色と、緑の葉の色が鮮やかだった。
この病室に入った頃も同じ景色だった。
だが、あの時この花畑を眺めていても、ちっとも楽しくなかった。
香奈が敬明会病院を離れ、武志に黙ってこの病院のホスピス病棟に移ってから一年が経った。
『もっと色んなことを話そうよ』
どこの病院に移ったか教えていなかったのに、武志はそう言って病室に現れた。
それどころか、この病院の勤務医となった。
そして・・・二人は結婚した。
コンコン♪
「香奈さーん。体温測りました?」
「はい」
香奈は看護師の木村に体温計を渡した。
香奈は武志が眠っているうちに体温を測っていたのだ。
香奈の手首で脈をとった木村は、記入簿にさっと書き入れて、
「じゃあ、お邪魔にならないように・・・」
と、武志に聞こえるように足早に病室を出ようとしていた。
最初はそれを気にしていた武志も、最近では気にしなくなっていた。
しかし香奈と木村が何やら目でやり取りをしていることに、武志は気が付いていなかった。
まだ、眠そうな武志に香奈は声をかけた。
「武志、こっちに来ない?」
「え?」
「もっと話をしたいの」
こんなことは初めてだった。
武志はちらっとドアの方をきにしていた。
「大丈夫よ。先生は知らないかもしれないけど、夕ごはんの時間までは誰も来ないわよ」
「・・・・・」
「ほら」
香奈は少し端っこに寄り、場所を作った。
武志は戸惑いながら、靴を脱いでベッドに上がった。
病室のベッドは狭かった。香奈と武志は並んでベッドの上に寝た。
寝ころびながらも、窓から花畑を眺める事が出来た。
「あの花は何ていうの?」
「え?どれ?」
「あの黄色いの」
「あー武志。前に私の店で買ってくれたことあるのに・・・」
「そうだっけ・・・」
「そうよ」
「でも、本当の目的は花じゃなくて・・・」
「え?何?」
「いや、なんでもない」
「ちょっと、言いなさいよ」
「忘れた」
「・・・・・フフフ」
「ハハハ・・・」
一度は離れた二人だけれど、たくさんの話をしてきた。
沢山、沢山の話をしてきたけれど話は尽きることはなかった。
「ねえ、武志」
「・・・・・・・・・・・・」
「武志?」
香奈が武志の方視線を落とすと、武志は香奈の肩に寄りかかり、かすかな寝息を立てていた。
「お・や・す・み・な・さ・い」
黄色や赤やピンクの花びらが夕陽のオレンジに染まり始めていた。
香奈は目を細め、その景色を眺めていた。
幸せだった。
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